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ミニFMに許される送信パワー(読み物) [アマチュア無線]

久しぶりの更新です。

TwitterでミニFMの話題が流れてきました。
札幌の高校生軍団がやっているようで、まるで35年前の自分の事のように懐かしく感じています。

時は1980年代。ミニFMが大流行しました。
有名な映画だと「波の数だけ抱きしめて」というのがあります。ミニFMを題材にした青春映画。

小さなFMトランスミッターを使って、お気に入りの曲をかけたりDJしたり。
本格的に番組を作ってリスナーとの交流(当時は電話や手紙)をしていたところもありました。

私は技術系の人間なので、送信機は自作でした。
FMステレオマルチプレクサーの作り方を調べて、それこそ何とか送信できる状態の物を作って楽しんでいました。

そしてだんだん出てくるのが「遠くまで飛ばしたい」という気持ち。
当時はすでにアマチュア無線をやっていましたので、電波を強くするブースターを作ることも出来ました。
→もちろん、作りました。ひどい品質でしたがw
しかし、実際には使わず実験で満足してしまいました。(それが自作系マニアの特徴=作るのが目的)

その頃、雑誌等でも取り上げられミニFMはどんどん増えていき、放送エリアを広げようと送信パワーを「強く!強く!」と進んでしまい、各地で総合通信局から電波法違反の警告を受ける人が出始めました。
※現在はDURASという全国規模の電波監視システムがあって、即時ピンポイントで電波の発信源と強度がわかります。自宅とかの場所固定の場合は、著しく「強い」と目立ってすぐばれます。

それですっかり辞めてしまいました。
流行出すと冷めるんです。

~~~さて、ここからが本題です。

ミニFMは資格も免許も要らない「微弱電波」という扱いで許されています。
これは名前の通りとても弱い電波で、オモチャのワイヤレスマイクと同じです。
つまり、同じ家の中で届くか、いいとこ「向こう三軒両隣」の半径数10mが限度な物です。
学祭とかのイベントで使うには十分ですが・・・

電波法では「著しく微弱な無線局」という内容で規定されています。
これは送信機のパワーではなく、電界強度で規定されているところがポイント。
電界強度というのは、受信地点でどれくらいの電波が来ているかを数字化したものです。
空間に対して放射された電波がとても弱いという事しか存在を許していないと言うことです。


数字も規定されています。
3m法で測定した場合、500μV/mという電界強度が限度値になっています。
→送信アンテナから3m離れた地点での電界強度が500μV/mと言う意味
 100m法では15μV/mです。(FMラジオではノイズ混じりでかろうじて聞き取れるかどうか)
これが数10mしか届かない程度の電波の強さと思えば良いです。
ステレオでクリアな音質を確保しようと思うと、環境条件が良くても10~30mが限界でしょう。

余談ですが、周波数によって許される電波強度がちがっていて、1つめの閾値が322MHzにあります。
それゆえ、315MHzまでのワイヤレスモジュールが多く販売されているという話もあります。
322MHzを超えると許される上限が著しく低くなるからです。
詳細はこちら→ https://www.tele.soumu.go.jp/j/ref/material/rule/

では、どうやってそれを担保するのか。
国内合法のお墨付き送信機を買ってくるのが1つ。メーカーがきっちり測定してお墨付きを貰っている物です。
自作の場合はどうしましょうか。おおむね小信号用トランジスタ1個で出せて、数10cmのリード線アンテナを適当に付けた状態でもグレーゾーンに入ります。実際にマイクとトランジスタ1個だけで作ってみると、そこそこ飛びますので。

まじめに計算してみました。
これは2アマの試験に出る問題です。

1)自由空間における電波減衰から電界強度を求める。

これは周囲に何も無い、いわゆる宇宙空間で1:1で通信した場合の理想値です。
地球上では6面電波暗室を使うと実測できます。

近似した公式は以下の通り。

E0=(7*√GP)/d [V/m]

Gはアンテナゲインで実数値。
アイソトロピックアンテナ(等価等方アンテナ)を基準とした数字です。
半波長ダイポールだと2.14dBiですので、数字は約1.6になります。
80cmのリード線アンテナだと1倍で計算しても誤差範囲内でしょう。垂直に立てると電波の放射強度は上下がへこんでいて横方向が強くなりますので1.3くらいが実測に近くなると思います。
※等価等方アンテナは計算に使うための理想アンテナで現実に存在しません。(=作れない)

Pは電力で単位はワット。
dは2点間の距離で単位はメートル。
3m法で規定された計算をするので、ここには3を入れます。

使用するアンテナに無指向性ホイップを使ったと仮定し、E0が500μV/mになるように逆算すると、P=50nWとなりました。(ナノワットは10のマイナス9乗です)

2)大地反射を考慮した実際の電界強度

理想状態での計算は先の数字でOKですが、宇宙空間で使うわけでは無いのでいろいろな影響を受けます。
その1つが大地反射です。

送信アンテナから受信アンテナに到達する間にはいろいろな物体があり、電波はその影響を受けます。
その中で大地は必ずありますので、大地での反射は避けられません。
この直接届く電波と、大地で反射した電波が合成されて、受信地点での電界強度が大きくなることがあります。広大な原っぱやグランドで実験していることを想像しましょう。

これを最悪値として採用してみましょう。

大地反射の計算をするには、先の式に送信アンテナと受信アンテナの大地からの高さ、それと周波数(波長)が追加になります。
計算式は以下の通り。

E=E0(4πh1h2)/(λd)

h1 送信アンテナの高さ
h2 受信アンテナの高さ
λ 電波の波長

ざっくりと、双方のアンテナの高さを3m、周波数は80MHz(λ=3.75m)を入れて計算してみましょう。
E0は先に求めた直接波の数字をそのまま採用します。(522μV/m)

結果、5243μV/mになってしまいました。
なんと10倍。
波の重ね合わせにより実際の電波はこれだけ増強される可能性があると言うことです。

では、大地反射を含めて500μV/mにするにはどうしたらよいでしょうか。
送信電力をさらに落とします。

計算してみると、この例では0.5nWで524μV/mになりました。
安全を見ると、送信出力は0.5nW(500pW)に半波長ダイポールと言うところ。
短縮型ホイップだとマイナスゲインになるので、1nWあたりが限度となりそうです。

ちなみに、現実的な数字を入れ直してみると、送信側が3m、受信側が1.5mだと、2nWになります。
結局、ざっくり1nW前後を目ざしておくのが無難な数字でしょうか。

3)輸入品の送信機をつかいたい

Alliexpress等を見ていると、出力100mW~1000mW可変式のトランスミッタが安価に出ています。
これを最小出力の100mWに絞っても違反の強度になってしまいます。
アンテナと送信機の間にアッテネーターを入れて減衰させましょう。

100mWを1nWに落とすには何dBのATTを入れれば良いか?
1/10^8にしてやれば良いので、80dBのATTが必要になります
※電力の場合、10の乗数の数字*10がdBになります。10dBで1/10、20dBで1/100です。
20dB ATTを4本直列かな。

これなら違反になりませんが・・・ ほとんど飛ばないでしょうね。
鉄筋マンションでは部屋の中だけが良いところかと。

えー!と思うでしょうが、それくらいしか許されていないんです。

4)秋月のキットはどうなってるの?
50Ω終端が付いていて、ここでほぼすべての電力(キットでは0.5mW)を熱にして消費しています。
そこからリード線で漏れを引き出してヨワヨワの電波にして空間に出しています。

5)資格を取ろう!

このような計算、無線従事者の資格を取ろうと思ったら必ず通る道です。
せっかく電波に興味を持ったのですから、コミュニティFMを開局できる「第2級陸上特殊無線技士(50W以下)」または、地方局を開局できる「第2級陸上無線技士(2KW以下)」や期間局を開局できる「第1級陸上無線技士(出力無制限)」を目指してみることをお勧めします。正直なところ、頭が柔らかい若い年代ほど取りやすい資格です。

技術系無線マニアの皆さん、プロ資格を目指してみませんか?
陸特は講習会でも取得できます。
国試イッパツでもそんなに難しくないですよ。

アマチュア無線の資格でも、2アマ以上ならかなり突っ込んだ知識を得られます。

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